臨時稼業

夜祭りのてき屋の金魚掬い

金魚掬いの屋台の主は、なぜか全く動じずに、涼しい顔をして、周りの通行人に、

「おう、そこの人、金魚掬いして行きな」 と、口上の掛け声を掛けている。

それを見ていた、お客が、

「おいおい、いいのかい? この子に全部金魚を掬い取られるぞ!」

その声に、屋台の主が、チラリと金魚を、ポイ一本で無言で掬っている少女の方を見ると、また通行人に声を掛けていた。

見かねた客が、「だから、旦那、これじゃあ、この子に、屋台の金魚全部持って行かれちゃうよ、いいのかい?」

確かに、水槽の金魚の殆どが、少女の前の十個のバケツと五個の金ボールの中に一杯になっている、もう金魚の大半は掬い取られている状態だった。

最後の一匹をポイで掬い取ると、屋台の主が、やっと少女に向かって声を出した。

「今日も全部掬ったのか、まあまあ早かったな!」

「うん、少しポイが破けちゃったよ」

「はははは」

その会話を聞いて、客が首を傾げる。すると少女は、折角掬った金魚を、金ボールの水を零して水槽に戻した。

「ああっ! 金魚が、勿体ない、何で?」

「えっ、これで商売してるんだよ、金魚掬いの手本を見せろって、お父ちゃんが言うから」

「まあ、俺がやっても、客が驚かないからなあ、はははは、たかにやらせているんだ」

それには呆れて、開いた口が塞がらないお客たち。