「老クレインが」バーナードは言った「立ち上がって式辞を言うぞ。老クレインが校長先生、鼻は夕日に染まる山のようだし、二重あごに刻まれた青い溝は、樹木におおわれた渓谷のよう、〈旅人がたき火を始めたぞ〉、汽車の窓から見える鬱蒼(うっそう)とした渓谷のようだ。

かすかに体を揺らしながら、素晴らしく格調高い言葉で演説しているな。僕は素晴らしく格調高い言葉が好きさ。だけど彼の言葉は騒々しすぎて真実味がないな。とは言え彼は今日まで、自分の言葉は真実だと確信してきたのさ。

部屋を出て行くぞ、かなり大きく左右によろめきながら、スイングドアに体ごとぶつかってさ。すると他の先生たちも皆、かなり大きく左右によろめきながら、スイングドアに体ごとぶつかって出て行くぞ。いよいよ僕たちが学校で過ごす最初の夜、姉妹たちともお別れだ」

「いよいよ学校で過ごす最初の夜が来るわ」スーザンは言った「お父さんから離れ、家からも離れて。涙がこみ上げてきて、泣き出しそうになるの。松の木とリノリウムの臭いは嫌い。風に痛めつけられた灌木やバスルームのタイルも嫌いだわ。みんなの快活な冗談やうわべだけの表情が嫌いなの。

私のリスとハトは男の子に世話してもらうようにしてきたわ。台所の扉がばたんと閉まり、パーシーがミヤマガラスを狙って発砲すると、散弾が木の葉に当たってぱたぱたと音を立てるの。ここにあるものはすべて見せかけ、すべて見かけだけ。

ローダとジニーが茶色いサージの制服を着て遠くに座り、ミス・ランバートを見ているわ。彼女はアレクサンドラ女王の肖像画の下に座り、目の前に広げた本の一節を朗読しているの。青い渦巻き模様の刺繍も飾ってある、卒業生の誰かが丹精を込めたのね。唇をすぼめないと、ハンカチをくしゃくしゃに丸めないと、私泣いちゃうわ」

    

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