波
私の無敵艦隊が高波を蹴って航行するのが見えるわ。何かに激しく当たったり衝突したりすることはないの。白い絶壁の下をひとりで航海している。ああ、でも沈んじゃう、落ちちゃう! あれは戸棚の角、あれは子供部屋の姿見。
でもみんな伸びて長くなっているわ。黒い雲のような眠りに沈んでいく。その厚い羽が私の両眼に押しつけられる。暗やみを進むと伸びた花壇が見え、ミセス・コンスタブルがシロガネヨシの後ろを回り走ってきて、私の叔母が馬車で迎えに来たと言うの。
私は登り、逃げ、かかとにバネの付いたブーツを履いて木のてっぺんを飛びこえるわ。でも、とうとう玄関ドアの前に止まっている馬車に落ちちゃうの。その中には叔母が座っていて、黄色い羽根飾りを揺らしながらうなずき、眼差しは磨いた大理石のように硬いわ。ああ、夢から覚めたい! 見て、整理だんすよ。
この海から逃れさせて。でも大波が次々に襲い、大波の谷間にいる私を押し流すの。私はひっくり返り、転がり落ち、引き伸ばされるわ、このいつまでも消えない光、果てしなく続く波、どこまでも続く道の間で。そして人びとが後から後から追いかけてくる」
太陽はさらに高く昇った。青い波や緑色の波が浜辺にさっと扇を広げたように打ち寄せ、穂のような花をつけたエリンギウムを浸し、砂浜のあちこちに浅い光の水たまりを残した。波が引くと、扇の先端にはかすかな黒い縁が残った。霧に包まれ柔らかな輪郭をしていた岩場が堅固な姿を現し、赤い裂け目が露わになった。
鮮明な縞模様の影が草の上に落ち、花々や葉の先端で震える露のために、庭は一つひとつ燦めく宝石を寄せ集めたように見え、庭というひとつのまとまった姿はまだ現れていなかった。
鳥たちの胸には鮮黄色やバラ色の斑点が見え、いっせいに一声ふた声と囀(さえず)った、興奮して、腕を組んではしゃぐスケーターたちのように。それから突然静かになり、ばらばらに飛び去った。
太陽は、明け方にもまして幅の広い光の羽で家を包んだ。光が窓の隅にある何か緑色のものに触れると、それは一塊の(ひとかたまり)エメラルドに、種のない果物のような澄んだ緑色の洞窟に変わった。光は椅子やテーブルの輪郭を際立たせ、白いテーブルクロスを細い金糸で刺繍した。