些細な、当たり前に叶うだろうと勝手に思い込んでいた約束たち。
21年間も一緒にいたけれど、まだまだやりたいことはたくさんあったのだ。
彼にとって、息子や家族との夢は尽きなかった。
一樹はよく話していた。
「子どもが生まれたら、キャッチボールをするのが楽しみだ」
「お爺ちゃんとお婆ちゃんになったら、縁側でお茶を飲もうね」
彼との何気ない会話の中に、こんなにも些細な夢があった。思い出しては、寂しさと悔しさで胸を締めつけられる。
きっと、彼は悔しかっただろう。
しかし何より、私とまだ幼い息子を残して先に亡くなってしまったこと。彼はきっと「ごめん」と思い続けているように感じる。
初めての育児、私には知らない、子どもへの愛情の注ぎ方や叱り方も、すべてにどう向き合っていけばよいのか、常に自問自答しながら葛藤し悩んでいた私を、一人にしてしまったことも、きっととても気がかりだったはずだ。
今の私にできることは、彼がしたかった、してあげたかったことを、彼に代わって少しでも息子と叶えていくことだろうか。
私の父が一樹の葬儀の後に言った言葉が、今も印象に残っている。
「悲しいけど、彼はもう老いることもなく、若くかっこいい姿のまま残るんだ」と。
いや、それは違う。
少しずつシミやシワが増えて、歳を重ねていく一樹を私は見ていたかった。
きっと一樹なら、私たちの記念日の節目にはお祝いし「これからもずっと一緒にいようね」と言ってくれただろう。そこにはきっと、私たちらしい雰囲気があったはずだ。
そして一樹も同じように「40歳になる薫を見たい。これからも一緒に歳を重ねていきたい」と、きっとそう思っただろう。