第一部

結婚

―私のお腹に赤ちゃんがいるんだ。

そう知った瞬間、目の前がパァーっと明るくなっていくような、驚くほど眩しく、けれど優しい光が見えた。

気づくと喜びを抑えきれずに、声にならない歓声が溢れ、子どものように飛び跳ねて喜んだ。

私は、父や母に愛されたかった。私をちゃんと見てほしかった。

こんな環境と経験のせいか、結婚にも子どもを持つことにも、ずっと抵抗があった。父と母の姿を見てきて、夫婦にも家族にも子どもにも、すべてにおいて夢や希望を持てなかった。

子どもが好きなのと、子どもを育て愛せるかはまったく別の次元の話だと思った。

気づくと私の描く母親像は、自身の母親の姿となぜか重なっていくのだ。

子どもは可愛い、大好きだけれどどうやって愛せばいいのか。

どうやって叱ればよいのか。

親となれば、可愛いとかそれだけの生半可な気持ちで務まるものではなく、産んでから育ててみてやっぱり無理だった、失敗した、後悔したと言い出しても時間を巻いて戻すことはできない。子どもをもし不幸にしてしまったとしたら、私のような子どもをこの世に生み出すことになってしまう。

長年漠然と抱えてきたはずの不安だったが、妊娠を知ったとき。

新しい命が、私と一樹の赤ちゃんが、今確かにここにいる。

その時、強く思った。

―この子には、絶対に私のような思いはさせない。 

妊娠しすぐ吐きづわりが始まり、精神薬もやめたのでほとんど眠れない妊娠生活を送った。結局、出産するまでつわりは続き、眠れず吐き気に耐える日々に、何度も心が折れそうになり、一樹の前で何度も泣いた。

でも不思議とずっと気持ちは穏やかで、出産予定日の数日前に破水し病院へ。