霊宝殿の一階は鳥獣・昆虫・植物など自然科学博物苑展示室、「ムカデは毘沙門天のお使いの霊虫として大切にされてきた」とあった。二階は寺宝展観室および與謝野記念室、三階が仏像奉安室である。

仏像奉安室には国宝の毘沙門天、吉祥天(きっしょうてん)、善膩師童子(ぜんにしどうじ) 三尊像の他に、聖観音(しょうかんのん)1体、兜跋(とばつ)毘沙門天1体、毘沙門天3体が展示されている。鞍馬寺は鑑真(がんじん)の高弟が毘沙門天を安置して草庵(そうあん)を結んだのが始まりとされる。

毘沙門天は北を護まもる四天王多聞天(たもんてん)の別称で、鞍馬山は平安京の北に位置し、毘沙門天を祀ったのに合点がいく。鞍馬寺は今でも毘沙門天の寺である。本尊はこの毘沙門天の三尊像であったとする説や、ここに安置されている兜跋毘沙門天の姿と近いものでなかったかとする説もある。

毘沙門天の多くは宝塔(ほうとう)をかかげるが、ここの中尊は額に手をかざして遠くを眺め、口元をゆがめて都をいぶかしがっているように見える。

隣の聖観音にどうしても目が行く。細身の体にはだけた胸元。ウエストはさらにくびれ、悩ましいのだ。ややふっくらした頰にぽっとした目で、顔立ちはやさしい。

霊宝殿はずっと私一人であった。仏さまを独り占めする贅沢(ぜいたく)な時が流れた。閉門の時間が近い。再び毘沙門天と聖観音に合掌し、名残惜しい気持ちで霊宝殿を出て山を下った。

  

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