しかし、高校を卒業するためだけに精神力を使い果たし、卒業後すぐに大学に進学する気力がなくなってしまったそうだ。高校からガクンと成績も下がり勉強もはかどらなくなり、大学を受験したものの受かる気もなかったので希望の大学にすべて落ち、それからは予備校に通いながら4年間浪人生活をした。
20歳になって一樹は実家を出て、予備校に通いながらアルバイトをし、一人暮らしを始めた。
そして、ようやく大学に入学したのが22歳の時だった。
一樹も学校がどうも苦手らしく、具体的な理由を聞いても明確に答えられないと言って、社会人になってからよく言っていたのは、学生生活よりも会社員の今の方が比べものにならないくらい気持ちが楽だということだ。普通は逆だと思う人も多いだろう。
でも、一樹はそういう人だった。
大学生活も順調にはいかず、途中で疲れたのか単位を落としたりして、2年留年したので、私と暮らし始めた時も、まだ一樹は大学生だった。
私は一樹と暮らし始めて、最初は単純に好きな人とたくさん一緒にいられることが嬉しかった。ただ長い時間を一緒に過ごすとなると、どうしても一樹の機嫌を窺うばかりの毎日になってしまっていた。
何をそんなビクビクしているのか……。
家出の件以来、父と母からの威圧感や無視される生活からは解放されてはいたけれど、あの生活が染みついているのか、一樹に嫌われたくないという感情が私と彼との生活を邪魔した。
相手が両親ではなく、一樹に変わっただけである。
それでも私は一樹と一緒にテレビを見て、一緒にご飯を食べ、一緒にお風呂に入り、たまに散歩をして、一緒に眠りにつく。そんな普通の毎日を送れることが本当に幸せだった。
機嫌を窺い怯えた生活ではあったが、それよりも一緒にいたい気持ちが上回っていたから一緒にいられた。
でも根本的な解決にはなっていなかったのだろうか。