一樹は、「服濡れなかった!?」とアタフタしていた。正直、スカートが少し濡れたけれど、私は「大丈夫です」と返した。

その後は、水族館へ行き、途中土産売り場でペンギンのぬいぐるみを買ってくれた。男の人と初めての水族館で緊張していたし、感情を表に出すのが苦手だったけれど、たった一言のお礼を言うことさえ勇気がいった。

「ありがとう」のたった一言が、その日私にとって、唯一なんとか努力して発したまともな言葉だった。

その後、観覧車が近くにあったので最後に私たちは観覧車に乗った。

とにかくデートみたいで終始ドキドキしていた。

そして、観覧車の中で「俺、薫さんのこと……好き……かもしれないです」と一樹に言われ、まさかの告白に戸惑った。どう返事をしていいのか。

一樹を男として見れているのかさえ分からなかった。

「ありがとう」と、とりあえず当たり障りのない言葉だけで終わらせてしまった。

一樹にとっては、それは断られたのかどうなのか、言葉の正確な意味が分からずにきっと混乱しただろう。

帰り、母と合流し、彼に手を振った。

    

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次回更新は1月8日(水)、21時の予定です。

  

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