一樹は、「服濡れなかった!?」とアタフタしていた。正直、スカートが少し濡れたけれど、私は「大丈夫です」と返した。
その後は、水族館へ行き、途中土産売り場でペンギンのぬいぐるみを買ってくれた。男の人と初めての水族館で緊張していたし、感情を表に出すのが苦手だったけれど、たった一言のお礼を言うことさえ勇気がいった。
「ありがとう」のたった一言が、その日私にとって、唯一なんとか努力して発したまともな言葉だった。
その後、観覧車が近くにあったので最後に私たちは観覧車に乗った。
とにかくデートみたいで終始ドキドキしていた。
そして、観覧車の中で「俺、薫さんのこと……好き……かもしれないです」と一樹に言われ、まさかの告白に戸惑った。どう返事をしていいのか。
一樹を男として見れているのかさえ分からなかった。
「ありがとう」と、とりあえず当たり障りのない言葉だけで終わらせてしまった。
一樹にとっては、それは断られたのかどうなのか、言葉の正確な意味が分からずにきっと混乱しただろう。
帰り、母と合流し、彼に手を振った。
【前回記事を読む】高校に入学したものの、人は簡単には変われない。まともに通ったのは最初の一週間だけで、また登校拒否となり、わずか一か月で…
次回更新は1月8日(水)、21時の予定です。
【イチオシ記事】ホテルの出口から見知らぬ女と一緒に出てくる夫を目撃してしまう。悔しさがこみ上げる。許せない。裏切られた。離婚しよう。