第一部
幼少期
ノックをされると緊張と恐怖で身体がこわばってしまう。
でも、特に用はなく「彼氏はできた?」なんて、他愛もない世間話をし、兄の部屋へ戻っていくパターンが多かったけれど、あの日は、世間話のような会話をしながらりょうくんは私のベッドに腰掛けた。
私は、机に向かっていたのである程度の距離はあったがなぜなのだろう。
何気ない話をしながらもまるで誘導されてゆくかのように、私は気づくと後ろ向きで、りょうくんの膝の上に座ったのだ。今考えても、何度思い出しても、なぜ自らそんな行動をとったのか分からない。彼から漂う空気感を察し、マインドコントロールでもされたかのように、私は膝に座ったのだ。
座ってからは、お互い言葉はなかった。
少しずつ、りょうくんの手が私の太ももの辺りを触り始め、心臓が口から出るんじゃないかと思うほど、聞こえるのは自分の激しい鼓動と恐怖感だけ。
思考が止まったように頭は真っ白だった。
ちょうどその時、6つ下の弟が突然「お姉ちゃん」とドアを開けた。
その瞬間、りょうくんと私はサッと立ち上がり、りょうくんは何事もなかったように兄の部屋へと戻っていった。なんというタイミング。
私は、弟に感謝した。
もしあの時、弟が部屋に入ってきてくれなかったら、私たちはどうなっていたのだろう。
考えただけで、ゾッとして背筋が凍るようだ。
そして、それ以降りょうくんが私の部屋に来ることはなくなった。
なぜなのか。理由は、彼にしか分からない。
未だに謎のままである。