第2章 半透明な夢

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お前が僕の横を通っていつもの部屋へ向かったので、慌てて後を追う。指定席に足を折りたたんで座り、自分のマイクをセッティングし始めた。

それを止めようかどうしようか悩んでいる間にもディスプレイ上は、マイクが拾った音声と突然の見慣れたアバターの登場に沸き立った。あまりにも色めきだっているその様は給餌前(きゅうじまえ)の動物園の様で、とても騒がしい。お前はマイクとマスクが接触しない様に微調整を掛けていた。

「えー、来ましたね。怪我人が」

お前が笑う。けれど声はほとんど出ず、掠れた咳の様な音だけが波形を震わせた。騒がしかった彩色豊かな声達もそれに気付いて一斉に静まり返り、ぽつりぽつりと言葉を変え出す。

「君、喋れないでしょ」

「少し、しゃべ、るよ」

辿々(たどたど)しく言葉を紡ぐお前に悲壮感漂う言葉が投げ掛けられる。

「いやー君さ、もう、本当顔凄い事になってるよ。夜人が君見たらキャー! 言うね。僕も言ったから」

「うん、凄いヘルツのね」

「今さ、この人顔ほとんど見えないんですよ。包帯でぐるぐる巻きみたいな状態で。で、左目だけが出てる。それがさ、ちょっとカッコいいよね」

「んふふ」

お前が笑っている。でも僕には、それが本当に笑顔なのかどうか分からない。