痛々しいお前の姿を、リビングの明かりが照らし出した。

キャンバーのパーカーの上にレザージャケットを羽織って黒スキニーを履き、その左足首には包帯が巻かれている。

僕は飛びつく様にお前に近寄り、声を荒げた。

何してんの、歩いてきたのか、足は? 怪我は? 何しにきたの? 大丈夫なのか? 痛いだろう、何で、ええ?

嬉しさと興奮と混乱と心配が混ざり合った感情は、お前が僕の元に来てくれたという事以外全てをどこか遠くの方へ捨て去ってしまった。そこには、ネット視聴者を待たせているという事も含まれている。

それでも僕は嬉しかった。

お前が僕の目の前にいる。

距離の問題ではない。目の前に、熱量を持って存在している。そこに、手を伸ばせば触れられる距離に帰って来てくれた。

表情はほとんど分からなかったが、露出した目は幾分か透明度を取り戻している。

お前がマスク越し、聞き取れるかどうかの声量で喋り始めた。実に六日ぶりに聞いたお前の声。

「始ま、てるよね」

僕はそれに面食らって、お、え、ああ、なんて言いながら頷いた。僕はどうすんの?と問いかける。マスクをしていては、クリアな音声にはならない。そもそも喋ることすら辛そうなのだから、長時間の放送は耐えられないだろう。側にいてくれるだけで僕はいいのだ。そう言おうとしたら、お前は笑った。様な気がした。

「聞き苦し、かもし、ない、すけど」

「え、無理だって」

「大丈夫」

     

【前回の記事を読む】「構ってちゃんとか嫌いなんだよ。ほっといて欲しいなら一生そうしてろ」足音を荒げて部屋を出たが…あれ?違和感。あれがない。

次回更新は1月4日(土)、20時の予定です。

     

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