一年生

しかし、無事に第一部家事に合格することができた。このころは、男性教師が戦争に取られて教員数が足りず、定員を増やしていたし、選考条件も緩かったらしい。だから合格できた、というわけでもないが、朋は四月から専攻科の制服を着ることができることになった。

初登校で入学式の日は、胸がはずんで何もかもが新鮮だった。諏訪(すわ)神社の停留所から登る坂道が嬉しかったし、白く塗られたゴシック様式鉄筋四階建ての本校舎は、朝陽をうけて白亜(はくあ)のように光っていた。

金毘羅山(こんぴらさん)の裾に立つ学校は、どことなく森の香りがして、海寄りの市女とは匂いから違い、玄関前の蘇鉄(そてつ)の木はエキゾチックに立っていた。

しかし、入学式のあとのホームルームが始まったとたん孤独感が押し寄せてきた。朋のクラスは三十一人だったが、その中に市女の出身者は朋一人だけで、周囲は知らない人ばかりだった。

クラスのほとんどは県女からの進学者で、他校出の見知らぬ朋は興味の的になっていた。圧倒的多数の、興味津々の視線を感じながら、覚悟はしていたつもりでも、身のすくむ思いがした。

中には、高等小学校出の、どこから見ても十八歳の貫禄のある娘(こ)もいて、なおさら委縮してしまった。だから、お昼の弁当を一人で食べ終わると、借りてきた猫の気持ちをしみじみと噛みしめながら自分の机に座っていた。その朋の前に、一人の少女が立った。

「貴女(あなた)、市女からきた栗山さんね、私は岩代八千代(いわしろやちよ)。みんなはヤッチンって呼んでいるわ。よろしくね」

級長として紹介された生徒だった。真剣さといたずらっぽさが同居しているような、よく光る眼が笑いかけていた。