どうやらさすがに満里奈も思い出したみたいだった。嫌な印象だろうがちょっとでも記憶に残ってたのは少し嬉しかった。

「そうです。気づいちゃいましたか。あのときのヤツです」

「やっぱり! すいません、すぐ気が付かなくて。なんかめちゃくちゃ雰囲気変わってたから」

「あのときはなんかすいません。嫌な思いさせちゃってたかなーって思って、自分から言い出せなくて」

「いや別に嫌な思いとかは……あっ、でもなんかチャラチャラしてるなーとは思っちゃってたかも」

「ですよね。自分でもなんか勘違いしてた時期で……」

「勘違いしてたんですか?」

満里奈が笑う。その笑顔は宝石のようでやっぱり、美穂ちゃんに似てるなーと思う。そういやあのときのバーでは、頑張って色々喋ってたけどこんな笑顔見せてくれていなかった。

「なんかあのときは髪の毛とかも変な色でしたよね、僕」

「ああ、確かに変な色でした。今の黒髪の方が似合ってますよ」

「じゃあ、よかったです」

「あと服もなんか嫌でした、THE大学生みたいな感じで」

「いやまあ、今も大学生は大学生なんですけど」

「なんか調子乗った大学生みたいな感じっていうか。薄っぺらいなーとか思っちゃって」

この子、結構ズバズバと言う子なんだなーと思った。でもその毒舌も不思議と嫌な感じはしなかった。それに薄っぺらいのは本当にその通りだったから。

「あれ、なんかちょっと言い過ぎてません? 嫌な思いしてないって……」

「あ、すいません! つい!」

「ついってなんですか!」

二人で笑い合う。あのバーではあんなに難しかったのに、一度打ち解けると満里奈はかなり話しやすい子だった。

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次回更新は1月2日(木)、18時の予定です。

 

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