僕の大学デビュー天下取り物語
その日から僕たちは、プライベートな話も色々するようになった。満里奈のことも色々分かった。
満里奈の年齢は僕の一個上で、小さいころからダンススクールに通っていたらしい。中学卒業と同時に東京に上京して、事務所に所属してアイドルダンスユニットを組んでいたらしい。
五年間ほど東京にいたが、CM出演を最後にユニットを解散して事務所を辞めて、宮崎に戻ってきた。今は実家の近くで一人暮らしをしながら、ダーツバーで働いている。
このジムに来たのは運動不足解消と、エアロビクスや筋トレのレッスンの他にダンスのレッスンがあるから。たまには少しでも踊っておきたいらしい。
そんなにダンスの腕があるなら、ダンス教える側でもいいんじゃないというと、満里奈もここで働こうかなーとも言っていた。
僕も出身地や年齢、ボクシングをしていることなど自分のことを色々話したが、満里奈はあんなチャラチャラしてた僕がなんで急にボクシングを始めたか気になっていた。
僕は正直にイキって金髪坊主にボコボコにされたこと、そのリベンジのためにボクシングを始めたこと、こんな自分を変えたいことを全部話した。満里奈は僕の話を聞くと、今までにないくらい顔をゆがめて爆笑した。
「ええ、なにそれ! なんか主人公じゃん!」
「いや、まあ。俺の人生だし」
「でも、そいうのって中学とか高校の話じゃないの? ボクシング初めて、いじめっ子にリベンジみたいな。もう大学生でしょ!」
村崎と全く同じことを言って、満里奈は笑う。
「変でしょ?」
「変だって! でもなんか分かんないけど、私は応援するよ。いいじゃん、リベンジ。ぶっ飛ばしなよ、金髪坊主。」
満里奈からしたら冗談半分で僕に乗っかっただけかもしれないが、満里奈の言葉は純粋に嬉しかった。仮に僕の気持ちを本当に理解してくれてなくても、そうやって笑ってくれるだけで嬉しかったし、そんなダサい真似やめとけよと否定しないことも救われた。
いつの間にか満里奈も僕もタメ語で喋るようになっていて、そこからはもっと話そうとジムの外でも会うようになった。
何度目かのご飯の後、僕と満里奈はノリで初めて会った「Z」に行った。もうあのときの店員さんは辞めていなくなってたが、そこで満里奈にあの時の僕がいかにダサかったかを永遠に説教を受けた。
二人ともいい感じでお酒が入り、そのまま勢いでラブホテルに行った。正直お酒と興奮でその夜のことはあまり覚えてないが、事を終えた次の日の朝、満里奈に交際を申し込んだ。一瞬、亜里沙のことや看護大の子のことが頭をよぎり嫌な予感がしたが、満里奈の返事はオッケーだった。
僕は天にも昇る気持ちだった。あのときの嬉しさだけははっきり覚えている。昔CMで見たあの子と、僕のくだらないリベンジを笑って肯定してくれたあの子と、僕は本当に付き合えたんだと。