僕の大学デビュー天下取り物語

その後も、満里奈に帰られた原因が、自分の薄っぺらさであると気づかなかった当時の僕は、もっとプレイボーイになって女の子に慣れないといけないと、より新一郎とコンパやナンパに明け暮れた。

そして、映画「クローズZERO」と出会い、今度はヤンキーの真似事をして、金髪坊主にボコボコにされた。我ながら情けない話だ。

満里奈と再び出会ったのは、僕が金髪坊主へのリベンジを誓ってボクシングを始めて、一年ちょっと経ったくらいか。大学三年生になったばかりの春。初試合で負けて失った自信を、鳥の巣頭ヤンキーとの一件で取り戻したくらい。

満里奈のこともさすがに記憶から忘れかけていたくらいに、二度目の出会いは突然訪れた。僕はそのときスポーツジムでインストラクターのアルバイトをしていた。その理由も強くなるためだった。

僕の通うボクシングジムはリングとサンドバックしかなく、筋トレのマシンなどはなかった。強い体を作りパンチ力をあげるためにはマシンを使った筋トレが効率がいいと聞き、ボクシングジムと併用してスポーツジムにも通おうかと思っていた。

そんなとき、スポーツジムの求人を見つけて、インストラクターになれば仕事終わりに無料で施設内のマシンやプールを使えることを知った。僕はすぐに応募して、一度は大学でも天下を獲ったこの口八丁で採用を勝ち取った。

インストラクターの仕事はみんなで腹筋したり筋トレ、エアロビクスなどをするレッスンもあるが、基本的には新規に入会してくる会員さんにマシンの使い方を教えることだった。

その新規入会してきたのが偶然にも満里奈だったのだ。僕はすぐに満里奈に気づいたが、向こうは僕のことはもう忘れているようだった。

過去に逃げられるほど嫌な印象を与えてしまっていたので、僕からしても忘れてくれているほうが都合がよく、僕はもちろん初対面の感じでインストラクターとして満里奈にマシンの使い方や施設の案内などを淡々と行った。

初めて案内を行ったインストラクターがその会員さんの担当インストラクターになるというシステムだったので、満里奈の担当インストラクターは僕になった。

満里奈は週に二・三回ほどのペースでジムに訪れた。前回はどんなトレーニングをしていて、どれくらいの重りを上げたとかは僕が管理していたため、満里奈とは必然的に喋るようになった。

先輩のインストラクターが「お前の受け持ってる子、可愛いなー」などはやし立ててきたが、僕としては一回逃げられてる身だし、もうそんな気は起きなかった。

それにリベンジを誓ってボクシングを始めてから、僕は昔のようにコンパしたりナンパしたりはしなくなっていた。全てを失い新一郎とも疎遠になっていたこともあるし、なにより酒を飲むと次の日の練習に響く。

僕を突き動かす今の原動力はあの日の復讐、そして本物になりたいという思いだけだった。

ジムに来た満里奈にいつも通り、今日のメニューを伝える。プライベートな会話などは勿論しない。その場を去ろうとしたとき、満里奈が唐突に聞いてきた。

「あの……昔バーで会いましたよね? Zってバーで」

「えっ?」

「あ、人違いだったらすいません。私も最初は気づかなかったんですけど、話してるうちにそうじゃないかなーって思ってきて。え、宮崎大学の方ですよね?」