僕の大学デビュー天下取り物語
デブホストのいる男グループがそのギャル達に話しかける。僕が本当のナンパ上級者なら、酔っ払ったフリとかしてその集団に「なんの話ー? オレも混ぜてー」とか一人でいけるのだろうが、さすがにそこまでの勇気はない。
もう一組、ギャルの三人組が来たが残りの男グループの近のソファー席に座り、カウンターにいる僕らは完全に余った。正確には寝ている新一郎と僕一人だ。
こうなったら、もう記憶を失くすくらい酒を飲んで、目を覚ましたときの未来にかけるしかない。酒の力で理性をなくせば、なんだってできるはずだ。
そして、それを覚えてさえいなければ、恥をかくこともない。
「黒霧、ロックで!」
僕は水割りだった焼酎をロックに変えた。
そのときだった。カラン、カラン。一人の女の子が入ってきた。ギャルではない、黒髪のショートカットのスタイルの良い綺麗な子だった。その子は僕の隣りに座ると、すぐにハイボールを頼み、細い煙草に火をつけた。
「久しぶりだね、満里奈ちゃん」
「最近、忙しくて」
横目でちらりと確認すると、改めて綺麗な子だった。白い肌、少し茶色がかった瞳は透き通った清澄さがあり、長いまつ毛がその輝きを引き立てていた。すらりと通った鼻筋にしゅっとした輪郭。
綺麗ではあるけどその横顔にはどこか影があり、ミステリアスな雰囲気も携えている。そして、煙草が似合っていた。
僕は思わぬ美女が隣に来たことで途端に緊張してきた。とりあえず、その満里奈と呼ばれるその子と同じように煙草に火をつけた。
煙草は最近始めたものだ。でもずっと吸ってて慣れてますみたいな顔で吸う。あ、そうだ。今更だけど、このときの僕はまだ十九歳の未成年だが、喫煙も飲酒も勘弁してくれ。今はもっと厳しいかもしれないけどあの頃の大学生なんてそんなものだ。
店員さんと満里奈の会話に、携帯電話をイジるふりをして慎重に耳を傾けてると、いくつかの情報がわかった。満里奈は今近くのダーツバーで働いていること、少し前までダンサーをしていたこと、今日は友達との予定がなくなったから一人で来ていること。
なんとか話しかける糸口はないか、会話を聞きながら頭を働かせる。でも、なんだろう。この満里奈という女の子はなんか既視感があるというか、初めて会った気がしなかった。そのせいか急に馴れ馴れしく話しかけても、うまくいきそうな気もする。
記憶をたどると、一つ思い当たった。
美穂ちゃんだ。中学の時に僕が好きだったアリエルの美穂ちゃん。それにどことなく似てるのだ。
あのときの美穂ちゃんが年を重ねて、変なヤンキーと付き合って傷ついてちょっと影がある感じの雰囲気が出て、そうなればきっと今の満里奈みたいになるに違いなかった。