付き合って半年で、満里奈とは色々なところにデートに行った。と言っても、宮崎のデートはほとんどドライブがメインで、その代わりに県内の綺麗なところはほとんど見て回った。

世界遺産青島の澄み切った海や満天の星空はもちろん、日本最南端の岬都井岬から沈む夕暮れも、神々が宿るといわれる高千穂峡の幻想的な景色も、イースター島でもないのに立ち並ぶ謎のモアイ像も、なんでも見て回った。

満里奈の作るチーズインハンバーグは絶品で、僕はよくお腹を空かして満里奈の家に行った。なんの話でも満里奈とは盛り上がるし、お互い何も話してなくてもなんか不思議な安心感が流れていた。

昔は寝る前によく金髪坊主にボコボコにされたことや、隆志にダサいって言われたことを思い出して眠れなくなっていた。

どれだけ考えないようにしようとしても、それは白紙に落ちた黒いインクのようにじわじわと僕の心に広がり、耐えがたい悔しさが沸き上がってきていたのだ。

ただ、セックスをして僕の腕枕で眠る満里奈の綺麗な横顔を眺めていると、不思議とそんなことを思い出さなかった。満里奈と一緒にいる幸せな時間は、金髪坊主や隆志のことも全部どうでもよくさせてしまっていたのだ。

しかし、その反面本当にこのままでいいのかとも思う。あのときの悔しさも惨めさも、そんな自分を変えようともがいて努力してきたこの二年間も全部なかったことにして、このままただ幸せ平穏な日々でいいのだろうか。

いずれ大学を卒業して、金髪坊主にも隆志にも会う機会を永遠に失って、どれだけ幸せな日々を送ろうとなにか胸の奥にしこりみたいなのは残らないのだろうか。

そもそも僕は何のためにボクシングを始めた? それは強くなるためだ。でもその強くなりたかったのは、金髪坊主にリベンジをして隆志に僕のことを認めさせたかったからだ。

別に他の誰にも強いヤツだって思われなくたっていい、プロボクサーになって試合に勝ちたいとも思わない。僕はただ金髪坊主と隆志だけには、あの日から変わった自分を見せたい。本物になったって思われたい。

【前回の記事を読む】「あの……昔バーで会いましたよね?」二度目の出会いは突然に訪れる。はじめはプライベートな会話など一切なかったが......

次回更新は1月3日(金)、18時の予定です。

 

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