第2章 DOHaDドーハッド学説

 3│エピジェネティクス

1│中尾光善/驚異のエピジェネティクス

(2014, 羊土社p31)1

同じゲノムをもつにもかかわらず、発生の過程で異なる細胞が生じるのはなぜだろうか。1942年、英国エジンバラ大学のコンラッド・ワディントン(1905-1975)が、この大きな命題に対する有力な考え方を提唱した。

「エピジェネティクス」という言葉を初めて用いたといわれている。この名称の由来は次のようである。「エピ(epi-)」とは、ギリシャ語で「~の上」という接頭語であり、「ジェネティクス」が「遺伝学」である。つまり、“従来の遺伝学の上にあるもの”という意味である。

従来の遺伝学とは、大まかに「メンデルの法則」と考えてよい。すなわち、エピジェネティクスとは、遺伝子で生物現象を説明していたところに、もう一つの環境因子を加えた理論であった。まだDNAの本体も知られていなかった時代のことである。(ワディントンの考え方を表すエピジェネティック・ランドスケープ図を紹介している)

日本語では、エピジェネティクスを、“後成的”と訳することがある。そうするとエピジェネティクスは、“後成的遺伝学”である。どうしても、本来のニュアンスが伝わりにくいことから、カタカナで表記することが多い。

2│久保田健夫/エピジェネティクスとDOHaD

(板橋稼頭夫編:DOHaD その基礎と臨床、金原出版、2008、p83–89)2

遺伝学をジェネティクス(Genetics)という。一方、エピジェネティクス(Epigenetics)とは、Epi(傍ら、周辺の)とGenetics(遺伝子)が合わさった造語であり、具体的には、遺伝子の調節を行う因子とその働きを探求する学問分野である。

エピジェネティックな遺伝子調節のファクターとして、DNAの化学修飾(メチル化)と DNA が巻きついている染色体タンパク質(ヒストンタンパク質)の化学修飾(メチル化とアセチル化)が知られている。