あの……とやっと切り出して道を尋ねるまでに、随分兄や両親のことを褒めそやされた。本当にこの人らがシルヴィア・ガブリエルの生前を知っているのか怪しいものだが、残された子という理由だけで、みんながかりで親切に道を教えてくれた。

お陰でその先の小路はよくわかった。なるほど、一軒の家のさらに奧ともなれば、尋ねなければ行き着くはずもない。無事薬草も届け、小路を戻ったが、女たちのお喋りで洗濯場はまだ大賑わいだ。

ちらりと覗けばさっきよりも人の数が増えたようで、張り上げる声も一段と大きく、小路の口にいてもその声が丸聞こえだ。

「あたしにもそんなご身内が一人でもいりゃあねえ」

「いたらこんな所で洗濯なんかしちゃいないよ!」

それに応えて女たちは陽気に笑う。どうやら、まだあの話の続きをやっているようだ。あそこを通るのは気恥ずかしいなと思っていると、

「で、残った子はどんなだったんだい?」

誰かが言う。あとから来た女なのだろうか? ラフィールは、自分のことだと思うと余計出るに出られず、その場に立ったまま聞き耳を立てた。

「いやあ、可愛い顔はしてたけど普通の子だよ。兄さんの方は何かさすがにもうちょっと違ってたじゃないか」

何人かの女がそうそうと頷いている。

「まあ、あたしが見るところ親や兄から比べればたいしたことないね」

「そんなことまだわからないよ。あの子だって、まだこれから何かするかもしれないじゃないか。同じ親の子だしさ」

「でも羨ましいじゃないか。お陰でご領主様にお召し抱えになったんだろ?」

ラフィールはかっと体が熱くなるような思いだ。先ほど親切にしてくれた女たちが、自分がいないとなればこんなことを喋っているのか。たいしたことがないなんて、会ったこともないあの女が、いったい自分の何を知っているというんだ!

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本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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