ラフィールはその日、薬草の束を抱えながら狭い城下の小路をうろうろしていた。

染め物商のご内儀の病気を治して以来、領民たちのリリスを見る目は一変した。他はどうでもあの者だけは、と偏見を剥(む)き出しにしていた人の目にも、治療の効果は明らかだ。

それに加え、命拾いしたご内儀が、リリスを名医と奉り周囲に触れて回ったので、評判は加速し、今では毎日のように領民がリリスを頼ってくるようになった。

薬を届けに行く途中のリリスと立ち話をしていたら、急病人が出たから診てくれないかと、声がかかった。代わりに届けてあげるよと安請け合いして薬草を預かったまではよかったが、いざ小路に入ってみるとその先がさっぱりわからない。

整然と配置されていた自分たちの村と違い、城下の小路はそこからまた上へ下へと小枝のような道が生え出して、どうしてこんなにも入り組んでいるのかと呆れるほど複雑だ。

聞けば、敵が容易(たやす)く侵入できないように、わざとそうなっているのだというが、これじゃ敵どころか住人だって自分の住処(すみか)に帰れないだろうにと案じる。

人に尋ねるしかあるまいと小路を出て、さっき横を素通りした洗濯場まで戻った。洗濯場には八人ほどの女がたむろして、姦(かしま)しく口を動かしながら持ち寄った汚れ物を洗っていた。

「あんた、弟さんだろ?」

近寄ると、何も尋ねない先に向こうから聞かれた。誰の、とは聞くまでもない。

こちらが見知った顔など一つもなかったが、口々にお悔やみの言葉をかけて、しっかりおしよと励ましてくれる。

「しかしまあ、よく頑張ったもんだね、あんたの兄さんは。あのギガロッシュからたった一人で出てきてご領主様を動かしちまったんだものねえ、ここの切れが違うよねえ」

自分のこめかみを指して喋る女の仕草に、大きな笑いが起きる。

「おや、それだけじゃないよ。あの容姿ときたら、あたしらが女だってことが恥ずかしくなっちまうよお」

「あんた見たことあるのかい?」

「見たともさあ」

女たちはラフィールをそっちのけで話に夢中だ。