侍は刀を納め、落ちた右手首に近づき確認した。硬直した手には地図らしき紙切れが握られている。道を訊きたかっただけ。まことならば酷いことをした。

「謝れよ! ドさんぴん」

一瞬後ろめたさがよぎった。だが目を少年に移しかけた刹那、また殺気を感じた。転げ回っていたはずの少年が、左手に隠し持っていた手裏剣を投げてきたのだ。金属がかち合う音。すんでのところで小刀が手裏剣を払った。相手はギラギラした目でまだ標的を睨んでいる。

「左遣い、か?」

右手を刎ねたことで油断した。囮だったとは。まだあるかもしれぬ。

「肉を斬らせて骨を断つ。言うは易いがよほどの覚悟が必要だ。それに、捨てる初手に気を込めたのも悪くない。小僧、おまえ初めてじゃないな?」

ひとを殺めるのが生業、と見る。小刀をしまって太刀を抜き、今度は用心しながら少年に歩み寄る。生かすべき命ではない。

「ゴタクはいいから、さっさと斬れよ」

舌打ちをしてから、少年はその場に胡坐をかいた。

「さも、ありなん」

侍は刺客の頭上に刀を振り下ろした。刀の峰で頭頂部を叩かれた少年は、全身を貫く衝撃を受け止めるように歯を食いしばった。

「武士の……情けって……」

命を取らない。少年はむしろそれが不満であるかのような、恨めし気な目を剥いた。

「なんの言い訳だ……」

要は人を斬る度胸がねえだけだろうが、と言い終える前に気を失った。番の外れた浄瑠璃人形のように崩れた体を、意義はしばらく見下ろす。手首から流れ出る血が乾いた地面を濡らしている。