三階に上がる階段に座って、うとうとしていると喪服姿の父が僕を抱き上げる。

「光も疲れたよな。お客さんが帰ったら、ゆっくりお母さんの顔を見られるから、それまでここで休んでような」

父は部屋に入ると僕をベッドに寝かせて静かに出ていった。母の匂いが残る毛布に包まれて、僕はすぐに眠りについた。

目が覚めると、部屋の中はすっかり暗くなっていた。

部屋を出ると階段下から、すすり泣きの声が聞こえる。二階に下りると、棺の前で背中を丸めて泣いている父の後ろ姿が見えた。こんな父の姿を見るのは初めてだった。

体中の熱が吸い取られ、力が抜けそうになりながら歩み寄る。僕は、父の背中に覆いかぶさるように抱きついた。

「お父さん、お父さん……」と背中越しに呼び続ける。

ずっと「お父さん」と呼んでいたはずが、いつの間にか、「お母さん」と呼びながら咽嗚していた。父は振り向き、うめき声をあげ泣きじゃくる僕の体を胸のほうへ引き寄せた。

棺の中の母は、目を閉じたままだった。

「お母さん、まだ起きないの? いつ起きるの?」

僕は無言のままの父に問いかけた。

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