初めての待ち合わせには先客がいた。

「ホントに神野さんだ」

男子と女子が二人ずつ、橘くんの友人連中がこちらに好奇の眼差しを注ぐ。

「だからそう言ったじゃん」

嬉々として答える彼を見て思った。この男は「彼女」という存在を友達に見せつけたかっただけなのだと。

狼狽(うろた)える私に、自分とは別世界のキラキラ女子が尋ねてくる。

「あれ? もしかして橘と二人きりが良かった?」

「……そりゃそうでしょう」

たいして仲良くもない同級生に、どうして冷やかされなければならないのか。

「うんうん。行ってきなよ、二人で」

「いえ、あの……帰ります」

「え、神野さん?」

回れ右をしてその場を去ると、すぐさま彼が追いかけてくる。更には後方から頭の悪そうな口笛が聞こえた。

「ちょっと待ってよ」

構わず歩き続けると腕を掴まれた。仕方なく、足を止める。

「なんかごめん。でもいきなり二人きりって緊張するじゃん。神野さん的にも女子がいた方が気が楽かなって」

その女子が私にとって赤の他人も同然なのだ。いや、そもそも他の人間がいる時点でデートとは違うのではないか。頭の中でごちゃごちゃと渦を巻く感情を、上手く伝えることができなかった。

「分かんないなあ」

ネタ出しでノートパソコンに向かっていた私は、一度ベッドに身を投げ出して頭の中を整理する。

「何が分からないの?」

「うん? 十六歳の自分がどうしてここまで拗(こじ)らせたのか」

慣れって恐ろしい。悪魔的なイケメンが現れたところで、もう驚かなくなっていた。

「改めて思い返すと、我ながら面倒くさい女だよね。向こうも大概ずれてたけど、こっちも相当ひねてる」

おそらく当時の私が欲していたのは経験だ。

だからたいして好きでもない男の恋人になり、キスをして、初めてまでも捧げてしまった。橘くんも悪い奴ではなかったが、強がる相手の本心を見抜ける男でもない。すれ違いが限界を迎えたところで、こちらから彼をこっぴどく振ったのだった。

―と、今だから客観視できるのであって、自分勝手な十六歳の視点で描くと橘くんがとことん無神経な男になる。

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