1-5-4

 

【訳】

この度は手向山(たむけやま)に取り急ぎ駆けつけたので幣(ぬさ)も持って来れなかった神様には代わりにもみじの錦をお供えさせていただこう

【歌人略歴】

菅家(かんけ) 845-903年。菅原道真(すがわらのみちざね)。平安時代前期の貴族・学者・政治家。忠臣として名高く、宇多天皇に重用されて、醍醐朝では右大臣にまで昇ったが、左大臣・藤原時平に讒訴(ざんそ)されて大宰府に左遷され現地で没した。

死後天変地異が多発したことから、朝廷に祟りをなしたとされ、天満天神として信仰の対象になる。現在は学問の神として親しまれている。

1-5 解説

山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり 

あらし吹く 三室の山の もみぢばは 竜田の川の 錦なりけり

ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは 

このたびは ぬさもとりあへず 手向山 紅葉のにしき 神のまにまに

もみじの風景を扱った歌がやはりきっちり4首撰ばれています。この4首も前半の2首、後半の2首というようにはっきり区別されます。

最初の2首は非常によく似た情景描写です。2首目には具体的な地名が現れていて、より鮮明に情景が思い浮かびます。

そして3首目と4首目は、いずれも、もみじと神様を関連させて歌っています。かくして、自然の中に神様の存在を感じさせながら、第1章が終わることになります。

その最後、1-5-4において神様を歌い込んだ歌人が、平安時代中期から神格化が進み北野天満宮に祀られてきた菅原道真であるということは、極めて象徴的なことですが、これも果して定家が意図したものなのでしょうか。

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