その先もずっと上手くいくことを疑いもせず楽観的だった。35年ローンを組んだけど、払えるかどうかなんて気にしたこともなかった。でも今は不安でいっぱいだ。そんなことを考えていると、琴音に聞かれた。
「最近、ずっと元気ないけれど、本当に大丈夫? 私に何かできることない?」こんなに僕のことを心配してくれるなんて、ありがたいし、後ろめたさもあって本当に申し訳ない気持ちだ。
でもなんとかこの難局を自分の力で乗り切って琴音と大輝を守っていこう、そう思えただけでも帰ってきた甲斐があった。
「そうだ、琴音に聞きたいと思っていたことがあるんだ」
「何かしら」
「今日オフィスを出るときに、僕の机の電話にメッセージが残っていることに気がついたんだ。ところがこれがピアノなんだ。聴いたことがある曲だったけれど、2曲入っていて、1曲目はショパンかな。
2曲目はしばらく前によくかかっていたポップスだと思う。2曲目の方は生演奏だ。スマホで録音してきたから聴いてみて」
「そんなことがあったのね。じゃあ音源、聞かせて」早速、スマホを取り出して聴いてもらった。
「なんだ、ショパンかな、じゃないわよ、有名な練習曲で通称『別れの曲』よ。きっと誰かが別れを悲しんで送ってくれたのよ」
「でも思い当たる人がいない」
「本当?」
「一緒によく食事に行った21歳の反田君はロック好きでクラシックは全く聴かない。でも最近は一番親しくしていたので、一応聞いてみたよ。でも見当外れという感じだったよ」
僕がそう言った頃には2曲目が始まっている。
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次回更新は12月20日(金)、8時の予定です。
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