大阪編
回復
こんな状況でさらに1年半くらい過ごした。限りなく続く色のない日々を1日1日灰色に塗り潰していく。ときどき、反田君と夕食のついでに飲むときには少しだけリラックスした気持ちになるが、長続きはしない。
車を売る戦略もいろいろと考えて所長に提案するのだが、採用されることはなく虚しい努力の繰り返しになる。一つでもアイデアを採用してくれたら前向きになれそうな気がするけれど、前に進めない状況は続く。それでも自身の車のセールス成績は、一番低迷してきた頃よりはマシになった。
そんな状態の頃に浦添営業所への異動を言い渡されたのである。営業所の窮状を救うために来たはずだったが、かえって迷惑をかけてしまった。
でも上手くいかないことを他の人よりたくさん経験したという妙な自信だけは身についた。沖縄の浦添営業所には所長代理という肩書きで赴任するので、形の上では栄転ということになる。でも浦添営業所は所長以下3名の弱小営業所であり、実質的には左遷である。
この件について東京の山上所長から電話があった。
「所長と何かあったのか? どうも今回の異動は本社の木南常務から直接指示があったようだ」
「吹田営業所をよくするために少しやりすぎたかもしれません」
「そうか。何があったかは聞かないが、そちらの所長の評判がよくないことは知っている人が多いから、あまり気にするな。新天地での活躍を期待しているよ」
異動の裏事情を知った僕は山上所長に礼を言って電話を切った。そういうことだったのか。大人しくしていると思っていたけれど、裏で画策していたんだな。
協力してくれた反田君にも被害が及ばなければいいと思った。ここにいても上手くいきそうにないので、気持ちを切り替えて沖縄で頑張ってみよう。