沖縄編
出発
「この曲は去年テレビで放映していた朝ドラ『空の蒼』の主題歌『青空のエール』ね。実際には歌詞があるけれど、これはピアノだけで弾いているわね」
「なにか意味あるのかな」
「この曲は誰かにエールを送る応援歌なので、沖縄に行っても頑張ってねという意味じゃないかな。やっぱり誰かあなたのことを好きな人がいたんじゃない?」
「忙しくてそれどころじゃなかったよ」
そう言いながら、申し訳ない、と心の中で思った。
「あなたがそう思っていなくても、相手が密かに恋愛感情を持っていることはあると思うわ。沖縄に移っていくあなたへの別れの歌と応援歌よ。本当に心当たりないの?」
「ないと思う。でもなんとなくロマンティックな話だとは思う。思いつく人がいない。誰なのかなぁ」
こんな他愛もない話をしているうちに、どうしようもなく絡まって沈み込んでいた気持ちが少しだけほどけていくような感覚があった。もちろん僕がしてしまったことは、この先もずっと消えないけど、久しぶりに人間に戻ったような感覚だ。
土曜日は久しぶりにTYPERに乗って3人で出かけて買い物と散歩をし、のんびりと開放感を味わうことができた。元々は日曜日の夕方に沖縄に向かう予定だった。でも会社からは月曜日中に沖縄に着けばいいと言われていたので、予定を変更して日曜日も自宅に泊まることにした。
3 日目の夕食を食べながら、もし家族で一緒にいることができれば、精神的に安定するかもしれないと思った。それにしても今日は仔牛肉のウインナーシュニッツェルをはじめとして僕が好きなものばかり食卓に並んでいる。その気持ちが嬉しい。