その夜、久しぶりにベッドで一つになったのは自然な流れだった。琴音の目には少し涙が滲んでいる。本当に申し訳ない。心配かけていたんだなとつくづく思い、大きな後悔の念に苛まれた。琴音と大輝のためにもなんとか立ち直ろう。

眠っている琴音の顔、隣の部屋で無邪気な顔で眠っている大輝を長い時間ただ眺めながらそう思った。

翌朝は、琴音が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、2人でゆっくりとした時間を過ごすことができた。朝のコーヒー、素敵な時間だ。それから身支度を整えて、大輝を近くの幼稚園に連れて行く琴音と一緒に出かけた。

マンションの玄関を出て、8月の朝の日差しを受け、東京では珍しいくらい透明な青空を見ながら、沖縄に直接行かないでよかったと思った。本当に久しぶりに今日という日を愛おしく感じた。これならなんとか立ち直れるかもしれない。

羽田空港に着く頃には、なんとか立ち直れそうと思ったさっきまでの気持ちが早くも揺らぎ始める。やはりまだ不安定だ。11時の那覇行きの便に乗ると13時半にはもう常夏の島、沖縄だ。

飛行機に乗ってから少し眠ってしまった。右手に富士山が見えていたところまでは覚えているが、その後眠ってしまったようだ。目が覚めると飛行機は既に降下を始めていた。窓の外を見ると、海の青と波の白がずっと向こうまで広がっている。

学生時代以来の沖縄だ。そう思うだけで今度は少し気持ちが浮き立った。飛行機に搭乗する前に感じた不安感が今はなくなっている。着陸する。いよいよ沖縄だ。空港から外に出ると外は夏らしい青空と、もくもくと高く白い入道雲。蝉の鳴く音が騒がしい。さすがに暑い。

ただ、本州の夏の暑さと違って湿度が低いためか、爽やかだ。吹く風も心地よい。待つこと5分、目の前に白い車が停まり、窓から首を出した若い男が「角野さんですか?」と声をかけてきた。吹田営業所から僕の顔写真が送られていたようだ。

「そうです」と答えたら、

「じゃあ、乗ってください。僕は営業所の平良です」と言われた。

平良君は彫りが深い綺麗な顔立ちをしている。しかも表情は柔和なので、接客態度に問題なければ営業に向いている。車が走り出す。助手席から海とその海と遠くの方で溶け合っている青い空が見える。

沖縄に来たことを全身で感じた。さあ、今日から気持ちも新たに頑張ろうという前向きの気持ちと、ついに最南端まで来てしまった、この先どうなるかなという不安な気持ちが交錯し、気持ちが揺れている。

車は空港から58号線に出ると左折し、そのまま那覇市街を抜けて浦添市に入る。沖縄というと最南端、最果てのイメージがあったが、よく考えると学生時代来たときから那覇や浦添は既に都会だった。今はさらに都会化が進んでいる。

それに東京と違って爽やかな開放感もある。自分が後ろ向きの気持ちだったので勝手に最果てのイメージを抱いていたのかもしれない。そんなことを考えているうちに車は58号線に面した営業所に到着した。

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次回更新は12月21日(土)、8時の予定です。

 

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