沖縄編

出発

建物に入ると、20代前半と思われる可愛い女性と、冴えない中年の男性が奥のテーブルで向かい合って話していた。この中年男性は城間拓海だろう。僕がここに所長代理として着任したために自分が所長になり損ねたと思い、反発するかもしれないと本社の山上さんから聞いた人物だ。

ただし、営業には向いているらしく、浦添営業所の売り上げの9割は城間さんによるという。もう一人の若い女性は山田美憂さん。ショートカットの黒髪で控えめな雰囲気の女性だ。でもよく見ると大きな瞳が印象的だ。

制服がカーキ色の冴えないデザインなのがもったいない。彼女には制服ではなく私服を着てもらう方が、営業所の売り上げも上がりそうだ。平良君は座って車を運転しているときは分からなかったが、車から降りると身長が18‌0‌センチを軽く超えていることが分かった。長身のイケメン男子で、優しそうなので女性にもてそうだ。

城間さんが私の方に向かって歩いてきた。他の2人と違い、中肉中背の彼にはカーキ色の制服が妙にマッチしている。

「奥のテーブルでコーヒーでも飲みながら歓迎会のようなことをさせていただきます」言葉や態度から歓迎されていないと感じた。皆で奥のテーブルに座ってささやかな会が始まった。

「私は主任の城間です。それではまず新所長の角野さんからご挨拶をいただけますか?」

「角野和希です。私は車が大好きです。東京本社から吹田営業所に異動したのは、車が好きな人に好きな車をリーズナブルな価格で売りたいと思ったからです。

ところが初めての一人暮らし、慣れない土地など、いろいろな要因が重なり、精神的に落ち込んでしまいました。結局、成績が伸ばせないまま大阪からこちらに転勤することになりました。肩書きは所長代理ですが、私はここにいる皆さんと同じ立場で頑張って浦添営業所に貢献したいと思います。

沖縄のことは何も知らないのでいろいろと教えてください。この営業所を全国の多くの中古車業者が注目するような営業所にすることが目標です。ご協力お願いします」話が終わったら、3人がパチパチと気のなさそうな拍手をしてくれた。

着任の挨拶としては踏み込んだ内容だったと思うが、聞いてくれた3人はどのような印象を持ったかな。

大風呂敷を広げたのには営業所活性化のための自分なりのアイデアがあるからだった。週末に家族で散歩していたときに思いついたアイデアも含まれている。

羽田から沖縄までの飛行機の中で考えたこともある。吹田営業所で採用されなかった多くのアイデアの一部もここでなら試せるだろう。このメンバーで可能かな? もう後がないので背水の陣の覚悟でやるしかない。