スクリーン ~永遠の序幕~

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翌日朝6時半に起こされた。普段と違う天井に現実を示される。

「掃除をしなさい」

ほうきと塵取りを渡された。

〈逮捕されるとこんな生活なんですね。まだ容疑者なのに〉俺の心の中の声だ。

「8時に朝食だ。それまでおとなしく過ごすように」

〈俺はずっとおとなしくしていると思うけど〉

もちろん、これも心の中だ。自分の性格が情けなく嫌気がさす。言いたいことの90%が言えない。このままここにいると自分をどんどん否定していきそうだ。

天井が見覚えのあるものになっていくことが怖く、憂鬱である。当然、今日の取調べでも同じ質問と回答が繰り返される。

「もう一度聞く。なぜ有希さんを突き落としたのかね?」

「突き落としていません」

長い一日が始まったことに変わりはないが、不思議と昨日より落ち着いている。

「蒼斗くん、キミの話によると、蒼斗くんは崖の上で有希さんに別れてほしいと言われた。その後、有希さんが崖から飛び降りようとしたから助けた。自分で言っていておかしいと思わないのか?」

「おかしいです」

警察官はまた呆れたような顔をする。調書作成に協力していないわけではない。しかし、参考になっていないのはよく分かる。

――有希とは2年前に知り合った。同じ瑛心(えいしん)高校のテニス部で2つ上の先輩だ。テニス部といっても部員が少なく、男女が同じコートでテニスを楽しむ同好会みたいなものだ。

瑛心高校は部活の掛け持ちができる。有希は演劇部に本腰を入れていた。7月の文化祭公演を見て、有希への想いを自覚した。楽しそうにテニスをする有希と一生懸命演技をする有希を見たからだと思う。

でも、俺は意気地なしで告白する勇気なんてなかった。