スクリーン ~永遠の序幕~
「さあ、それではこちらに来なさい」
机を3つ4つ置けばいっぱいになってしまいそうな狭い部屋だ。机の上には紙のようなものとノートパソコン、そしてプリンターが置いてあり、刑事ドラマに出てくるイメージとは随分違う。
窓もなく、殺伐とした雰囲気だ。ようやく手錠が外された。
「蒼斗くん、動機を教えてくれるかな。なぜ有希さんを崖から突き落としたのかね?」
「え、待ってください。俺が有希を突き落としたんですか? 有希がそう言ってるんですか?」
やっと言葉が出た。
「君以外に誰がいるんだ」
一瞬警察官も驚いたように見えた。しかし、その目は俺を軽蔑している。
「改めて聞く。動機を教えてほしい」
「そんなこと、俺はやっていません。何かの間違いでは、ないですか」
自分でも弱々しく感じる。そして、その弱さを証明するようにうつむく。
「昨日のことくらい覚えているだろう?」
「なぜ、俺が逮捕されるのですか? 何もやっていません」
苦し紛れに言ったものの、相変わらず俺の声は小さい。これでは自覚はあるが事実を認めない幼稚な犯人のようだ。
「君、今の状況を分かっているのかね?」
警察官は苛立つというより呆(あき)れている。警察官の気持ちも理解できるが、自分でも状況が分からないのに満足な説明などできるわけがない。
「蒼斗くん、キミのためにも正直に話しておいたほうがよいと思うがね」
嫌味を言われている。俺がやったと思っているに違いないし、何かしらの証拠が出ているのだろう。落ち着いて考えようとしても戸惑いが先行する。
今は警察署にいて尋問を受けている。しかも有希の殺人未遂。冷静に考えろというほうが無理だ。俺は無意識にゆっくりと立ち上がっていた。周りの警察官は慌てているようにも臨戦態勢に入っているようにも見える。
「すみません。この縄を外してもらえませんか。落ち着いて考えられません」引っ張られた腰縄を指す。俺はアッサリと言われてしまった。
「ダメだ」
せめて自分の中でこの状況を整理しよう。ひたすら比喩のように感じ、重ねて己を客観視している理由が少しだけ分かった。俺はこの一連の出来事をまだ他人事だと思っている。というか、現実を受け入れたくないだけだ。
俺を犯人だと思っている警察官にまともに応対すべきなのか。推理ドラマではないが、何か自分が犯人でない証拠を探せばよいのだろうか。
――昨日までのことを思い出そう。先週の日曜日、先輩の坂田さんからの電話が鳴った。