後から有希から聞いた話では、俺の気持ちに気がつき、その時から有希も俺を意識してくれたという。そして、有希から誘ってくれるようになり、1年生の秋頃には付き合い始めていた。
小心者の俺には、こんな幸せなことはない。それから2年、大きな喧嘩もなく、有希が就職してからも順調な関係が続いていた――
そう思っていたのは俺だけだったのか?
何か嫌な思いをさせていたのか?
それとも有希は何か悩んでいたんだろうか?
思いもよらない別れ話であり全く見当がつかない。俺が高校を卒業したら、それを機に結婚しようとまで話していた。
先月、誕生日を祝ってくれた時だって、こんな事態は想像もしていなかった。それどころか、有希の変化に全く気付かなかった。警察官の質問には答えず、黙々と考えだしていた。
「聞いているのか? 何度も言うが黙秘なんてしても為にならないぞ」
怒鳴られるようにして取調べが終わる。この先どうなっていくのだろう。急に転てつ器で線路を切り替えられた列車のようにどこを走っているのか分からない。その上、ブレーキまで壊れている。
確かに俺は急に別れ話を切り出されて若干自暴自棄になった。しかし殺人なんて考えるだけでぞっとする。考えれば考えるほど積み木を崩していくようだ。自覚がない分、現実との狭間に立たされ発狂しそうだ。
今日はいつものノイズ画像が目を閉じていても見える。
外の景色
6時半に起こされた。もう「夢だったらよかったのに」とは思わない。この変化が怖い。
「少しずつ現実を受け入れ始めている」と感じることが嫌だ。そのためか俺の心は取り調べを求めている。でも、今日はなかなか呼ばれない。
9時。時計ばかりを気にする。
しかし、取調室に行ったところで何が叶うのか。新事実が発覚していて事態は急展開、取調官も笑顔になって俺は釈放? あり得ないことにどうしてこれほど期待してしまうのだろう。
皮肉なことに、悩んでいるほうが時が経つのが早く、そして苦痛度も少ない。
「出なさい」