ネムがさけんでだきしめたが、ジドはその手をふりきってにげだした。
「ジド、ジド!」
ネムがさけんでおいかけた。
だが旦那はいかりくるって、下男たちに命令した。
「つかまえて、ぶちのめせ!」
それから、ふるえている父さんと母さんにむかって、こぶしをふりあげてどなった。
「おまえたちがあまやかすから、こんなことになるんだ。つかまえてこい!」
ふたりはあわてておいかけたが、ジドはどこかに逃げてしまって、いくらよんでも、すがたをみせない。
やがて下男たちがもどってきたが、やっぱりジドのすがたはない。
「途中までおいかけたのですが、とつぜんみえなくなりました」
旦那はおこって、あおざめてもどってきた父さんと母さんをどなりつけた。「あしたは、かならずつれてこい。もしつれてこないなら、すぐにあの家をあけわたせ。わかったか!」
ネムは、泣きながら原っぱにいった。だけど、ジドはどこにもいない。大声でよんでも、やっぱりこない。
疲れきって草のあいだにすわりこむと、鳥や動物たちが、ひっそりとそばにきた。
いつもだと、ネムは歌をうたったり、はなしかけたりするのだけど、今日は、ただ泣きじゃくるだけだ。
「おーぐ、あっごーいああい。ジド、いっじょいゆ」
泣きながらこういったとき、ふいに木の枝がゆれて、ジドがとびおりてきた。
「ジド!」
ネムはジドをだきしめた。ジドは、ネムの顔を、ぺろぺろとなめつづけた。
「ネームー、ジードー!」
林のおくから、父さんと母さんの声がする。
月夜とはいっても、林のなかはまっ暗だ。ふたりは木の根につまずきながら、手探りでようやく原っぱにたどりついた。
月がかがやいて、草は風に波のようにゆれて、光っている。みなれた場所でも、昼間とちがって、草はものすごく深く感じられる。ふたりは草をかきわけながら、息子のいきそうなところをさがしまわった。