海鳴りの聞こえる町
村の入り口に立つ、三本松まで来た時だった。朝もやの漂う遠くから声が聞えた。
「おーい」「おーい」
息を切らしながら、剛三が二人を追いかけてきた。 剛三に懇願され、本庄の家に戻ることになったつねは、覚悟を決めたかのように若さに任せ働きだした。
女手が加わったことで、家の中に少しずつ変化がもたらされた。
野生児のようだった子供たちも、伸ばしきりだった髪の毛を切り、破れた着物につぎを当ててもらい、こざっぱりとした風体になっていった。
つねはこの家に慣れてくると、どの子にもずけずけとものを言い、言うことを聞かないと大声で叱った。
年長の子供らがつねに口答えした時は、剛三が側に寄っていって、
「おっ母ちゃんに逆らうな」
と頭をはたいた。
剛三は一緒に生活していく中で、年は若いが裏表のないつねの率直な人柄に、次第に信頼を寄せるようになっていったのである。
その一方、隣組の防火演習で、周囲の者たちを怒鳴り散らす隊長の男に、つねが夜陰に紛れてバケツの水を後ろからぶっ掛け、「誰だ、やったのは!」と怒鳴られても、知らん振りをしているような剛毅な面にはハラハラさせられた。
「だってよう、自分はえばりくさって、皆を顎でこき使っているんだから、ホント肝がいったよ(腹が立ったよ)」
つねが一番気を遣っていたのは、家族から「へんこさん」と呼ばれている舅の忠助だった。