この日、大阪にあのTYPERがあればドライブに行ったかもしれないし、そうすれば何かが変わったのかもしれない。でもそれが何だというのだろう。僕の意識は深く海の底に沈んだままだった。
次に、彼女の部屋に行ったとき、別れを告げられた。僕の方は、やっぱり、ついにずっと心配していたことが起こったと、崖から突き落とされた気分になったが、これ以上心配することもなくなったからか、不思議なことにどこか安心した気持ちにもなった。彼女は泣いていた。
「角野さんのことずっと支えていくつもりでした。でも今は角野さんが私のことを好きだとは思えなくて、一緒にいるときも寂しいです。それに角野さんにとって2人の関係がプラスに働いていないです。お互いのためにお別れする方がいいと思いました。本当にごめんなさい」
これが2人で会った最後の日となった。今までずっと一緒にいてくれた水島さんがいなくなったその日はさすがに落ち込んだ。
翌日は、とても天気がいい爽快な日だった。青い絵の具を一面に振り撒いたような空を見ていると、今はまだ難しいけれど、結局自分で何かを変えて切り拓くしかないのだと思った。
この数ヵ月、前よりはしっかり食べて、人間的な生活をしたのがよかったのだろうか、少しだけ前向きに考えられるようになった。別れることになったあの日、静かに泣いていた彼女を見たのが僕に残った水島夕未の最後の記憶だ。
彼女のためにも、自分のためにも、もう一度頑張ってみよう。そう思えるようになった。簡単ではないけれど、なんとか前向きな気持ちだけは持とうと思った。ただ、営業成績はよくなる兆しもなく、前向きの気持ちだけではなんともならないことはすぐに思い知らされた。
【前回の記事を読む】その夜、彼女の中に入ったあとに僕は名前を呼んだ。小さな声で「嬉しい」と少し涙ぐんでいるようにも見えた...
次回更新は12月16日(月)、8時の予定です。
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