「でも、俺は村にいた頃の二倍は仕事をしているぜ。村じゃみんな同じ物食って暮らしてきたけど、こっちへ出たとたんに、何もかもが同じってわけにはいかなくなったんだ。いいところだけ見て俺たちのことを羨ましがるけど、この忙しさを知ればどうかな? こんなふうに気も遣ってるしな。
俺はまだいいけど、アリックスなんか気の毒だぜ。俺たちの村の織物はえらく価値があるらしくて、国王様が買い上げて下さるんだが、月に一反(いったん)織り上げろって言われているから、もう自分が蜘蛛になったみたいだとぼやいていたよ。
なのに国王様からいただく金貨の三分の一は他人が持っていくそうなんだ。商人といってな、織り上がった布を仲介する奴がいるんだよ。割のいい仕事もあったもんだな」
デュディエは鼻の頭に皺を寄せて憎らしそうに笑った。
「お前が今着ているようなのも、その商人とやらが値をつり上げて、もう俺たちの手には入らなくなりそうだぜ」
ラフィールが着ているのは、青みを帯びた灰色の薄布を何枚か重ねたような、軽くやわらかで温かい、村では誰もが着ていたものだ。
「ええ? 僕らのものだったのに?」
「ごっそり買い上げられるんだから、村人たちに回せるものなど何もないのさ。俺たちが作ったものは金になるが、値がつけばつくほど、俺たちはもう今までのようには使えない」
デュディエは妙な話だろ、と苦笑した。
ラトリスはヴァネッサの民の当面の居住地として設けられたためか、村をそのまま小規模に再現したという印象を受けたが、城下へ出てくると、これほど暮らしは様々なのかとラフィールは驚くことばかりだ。