優子 ―夏―

カウンターの中の若い男の人は表情ひとつ変えない。レーズンバターを輪切りにするその手つきに、あたしはじっと見入った。

「でも犯人は許してくれなかった。妹に顔を見られたから。車の窓ガラスをたたき割る、金槌みたいなレスキューグッズあるでしょ。あのとがった方で、犯人は土下座したままの妹の頭を叩いたの。力いっぱい。何度も何度も。頭蓋骨が割れて脳漿(のうしょう)が飛び散るまで」

ポッキーを出してシャンパングラスに立てている。七本ずつ。ラッキーセブンで七本なのかな?

「検死で肺の方にまで河川敷の細かい土が見つかったから、妹は最初の一撃で絶命したわけじゃなかったのよね。犯人は三人で、裁判では誰が凶器を振り下ろしたのか、お互いに罪をなすり合っていたわ」

それからミックスナッツ。なーんだ、銀座のクラブっていっても、おつまみはそこいらのスナックと違わないじゃない。

「父は、最初は気丈に振る舞っていた。気が狂ったみたいに泣いていたわたしをしっかり抱きとめてくれて。でも、裁判の傍聴席で妹がどうやって殺されたか男たちが話すのを聞いて、おかしくなった。だんだんと、心が壊れていった。しまいには働くことができなくなって、うちは事業をやっていたから、会社を手放さなくてはならなくなった」

ステンレスのバットに大粒の牡蠣が入っている。鉄製のミニパンを火にかけ、オリーブオイルで最初にニンニクと鷹の爪を炒めて……アヒージョを作るんだ。美味しそう。

「あなたのおかあさんに赤ん坊を殺された奥さん、今だに引きこもりがちだって知ってた?」「え?」