あまりにストレートな言い方に心底びっくりして、あたしはまじまじと佳香さんの顔を見つめた。今のって現実? 一瞬疑った。

「そんなこと、あたし、知りません」「事件から十数年経っているのに、今だにマスコミ恐怖症で、スーパーに買い物に行くのにも努力が必要らしいのよ。でも、もうひとり子供がいるから、しっかりしなくちゃって、無理に頑張っているんだって。それがまたストレスになっているらしい」

「どうしてそんなこと知っているんですか?」

「被害者遺族の会でいっしょなの、その奥さんの父親と。今年から会の理事をしているわ。知らないの? そのお父さん、あなたと同じ区内の、老舗のシャッター会社の社長さんよ。事件の後は奥さん、実家の敷地内に別棟を建てて一家で住んでるわ」

「おにいちゃんにもその話、したんですか?」

「いいえ、劉生にはしていない。あの人、ああ見えて繊細だから」

「あたしは繊細じゃないっていうんですか!」

急に、店の奥の、若旦那のテーブルが静まり返った。あたしは相当大きな声を出してしまったらしい。

「あなたは劉生とは違うわね。ぜーんぜん、違うわ」

佳香さんは正面からあたしを睨んでいた。その視線はしっかりと焦点が合っているはずなのに、こちらの身体を刺し貫いてはるか彼方に及んでいるように見えた。あたしはスツールから立ち上がり、思いっきり佳香さんを睨みかえした。