優子 ―夏―
大型トラックが停まるスペースにはたくさんの紙が積んであった。フォークリフトから突き出た二本の長いつめを、おかあさんは簀子(すのこ)のような板の下に慎重に差し込んで、大量の紙をゆっくりと持ち上げる。
その顔があんまり真剣で険しいので、あたしは電信柱の陰から一歩を踏み出すことがためらわれた。たくさんの紙の束を持ち上げるのは機械の力なのに、眺めていると思わずこちらまで力んでしまう。運転席で操縦しているおかあさんも、操作レバーを動かしながら歯を食いしばるような表情になる。
機械の向きを変え倉庫の奥にゆっくりと紙の束を降ろすときも、両肩は衣紋(えもん)かけのように持ち上がったままだ。
聖がぐずり始めた。これは大泣きになるなと覚悟したとたん、鼓膜に直撃するみたいな声で泣きだした。フォークリフトがゆっくりと回転して道路側を向いた。おかあさんがこちらに気づいた。ヘルメットの下で白い歯がのぞく。
聖の背中をとんとんやりながら、おかあさんの乗る機械のところまで歩いていく。隠れていたところを見つけられたようなきまり悪さで、あたしはいっぱいの笑顔をつくった。
「お買いもの?」
運転席からおかあさんが訊いた。顔中から汗が噴き出ている。屋外といってもいいような場所での作業なのだから、ヘルメットをかぶっていたらさぞ暑いだろう。
「お友達に会いに行くの。慎さんは残業」
「赤ん坊もいっしょ?」