僕を置いて早々に喧嘩から降りたことを責めようかと思ったが、もうそんな気力は湧き上がってこなかった。僕も馬乗りで殴られて「助けて」なんて言って醜態を晒しているし。
「ケンカは……どうなったん?」
ゆっくり口を開いたが、痛い。口の中もそうとう切れている。
新一郎が少し言いづらそうに答えた。
「……隆志が終わらせてくれた。」
「隆志?」
確か気を失う間際に見た。隆志が駐車場にやってきていたのを。
でももう一人は誰だ? 隆志と一緒に来た茶髪の鳥の巣頭のヤンキーは?
聞いた話はこうだった。
どうやらあの茶髪鳥の巣頭のヤンキーは、隆志の中学校のときの友達だったらしい。隆志は中学・高校時代、ヤンキーではないけれども喧嘩も強く、ヤンキーに一目置かれる存在だったようだ。
今回、金髪坊主達と大学の友達がこういう喧嘩をすることになったと、隆志は鳥の巣頭のヤンキーに相談した。
すると、そのヤンキーが金髪坊主とも顔見知りでもあったようで、喧嘩を仲裁してくれるという話になったらしい。
結果、隆志がいない間にもう僕が勝手に喧嘩を始めていたため、そのヤンキーは仲裁することもできず、隆志は金髪坊主とタイマンを張ったとのことだ。
隆志と金髪坊主のタイマンは互角。
お互いに一歩も引かず、殴り合ったらしい。
そして戦いの末、勝負はつかず2人はお互いの健闘を称えあい、握手をして友情が芽生えて終わったらしい。
なんだよ、それ。隆志が一番カッコいいじゃねえか。
そして、隆志は大学デビューなんかじゃなかった。金髪坊主と同じ本物のヤツだったのだ。
僕の家に隆志の姿はない。どうやら鳥の巣頭のヤンキーと一緒に帰ったらしい。
新一郎や他の仲間もしゅんとしている。それはそうだ。こいつらも金髪坊主の前に正座してしまってるのだ。
僕はその後、新一郎に病院に連れて行ってもらい、色々な精密検査を受けた。結果は奇跡的に異常なし。死を覚悟したが、思ったより体は頑丈だったみたいだ。
でも僕はしばらく包帯まみれの腫らした顔で大学に通うことになった。
そして、僕のそこからの大学生活は一変した。
どこまで話が広がってるのか分からないが、周りのみんなが僕を見て笑ってるような気がするのだ。
「あいつあれだけイキがってたのに、工学部のヤツにボコボコにされたらしいよ」
「みんな正座してたんだって」
「木本なんか、助けてとか言ってたんだって」
口ぐちに周りのヤツらがそんなことを言ってる気がする。
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次回更新は12月18日(水)、11時の予定です。
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