だが、プレノワールは今やヴァネッサの民という強い手札を手に入れた。これを掴んだ我らは、彼らに対してこれまでよりはずっと優位な立場にいるはずだ。
幸運にも巡ってきたその強力な手札を、なぜもっと有効に利用しないのか。この国に新しい規範を示しうるのはあの王家よりもむしろ我らの家系ではないか! それをみすみすあの父は……。
「よろしいですか?」
開け放したままでいた扉の前にバルタザール・デバロックが立っていた。いつからいたのだろう。
花を蹴り散らしていたところを見られたりはしなかったか、ジェロームは内心慌てふためいたが、それを悟られまいと敢えて涼しい顔で通した。
「先ほどは、連れがおりましたので失礼しました」
彼がそんな挨拶をしにわざわざ来るはずもない。どうせあれから、父と二人で自分のことを話したに決まっている。ジェロームは黙ったまま窓辺まで行って振り返ると、入って戸を閉めるように促した。
「父上は何と?」
単刀直入に聞いた。
「蒐集癖を諫められたとか?」
逆に聞き返して、利かん気の子どもを相手にしたようにバルタザールは面白そうに笑っている。ジェロームは不愉快そうに、ぷいとそっぽを向いた。
【前回の記事を読む】鳶色の髪に少し気難しそうな整った顔立ち、立派な身なりのその青年は、バルタザールの姿を見つけると何か物言いたげな様子を見せたが…
次回更新は11月29日(金)、18時の予定です。