鶸色のすみか

遊歩道は、足への負担が少ないようにと考えられているのか、土がしっかり固められ、ウォーキングにもジョギングにも適しているのだろう。その道を、子どもとも大人とも判断がつかない若い女が、歩いているのかそれとも走っているのか、不安定な足取りでずりずりと擦るような音とともにこちらに向かってくる。

小太りの体にリュックを背負い、顎を突き出し、手には外した不織布のマスクを握っている。グラウンドを一周すれば五百メートルくらいだろうか。通り過ぎて一周してまた戻ってきた。かなり無理をしているようで苦しそうに見えるが、ダイエットのための運動だろうか。ガンバレと無言で応援する。

隣のベンチで屯(たむろ)しているシニアらは、彼女が前を通るたびにからかった。マスク外しとるで。大丈夫か。頑張っとる、頑張っとる。タッタラッタ、タッタラッタ、タッタラッタ、タッタラッタ、頭と舌でユモレスクを繰り返しながら、月子は脳内で彼女のランニングに付き合った。汗が引いたのでベンチをあとにした。

七月の終わりかけた頃、白鳥さんからようやく「会えますか?」とメッセージがきた。

駅前あたりのあちらこちらに明かりが灯っている。どの店も人々を引き寄せるように、オレンジ色の光を放っている。温かく灯った店の中に、人の背中がいくつも見えた。居酒屋のカウンターに並ぶ、ぜい肉をつけた中年の男たちの無防備な背中は、戦争も疫病もない平和の仮相なのかもしれない。

「かぎろひ」で白鳥さんと向かい合っていた。岩牡蠣、げそ焼き、鱧落とし、ハムカツ、ねぎま。一度に注文したので二人の前にどんどん並んだ。ああ、贅沢だな。