二
鍋を囲む三、四人が話題を共有するようになり、会場には再び喧騒が訪れた。その喧騒の中にぐつぐつとすき焼きが煮え立つ音と甘い割り下の香りが混じり始めると、話し声は次第に低くなっていく。
「下宿生の人は、腹いっぱい肉を食べることって、滅多にあらへんと思うてすき焼きにしました。まあ、すき焼きはぼくの好物でもあるんやけど。ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ」サークルの穏やかな新スタートに、今出川は嬉しそうだった。
今出川の隣に座ったタータンチェックの堀川は、今出川のコップが空にならないよう、せっせとビールを注いでいた。今出川はすっかり紅潮していた。
サオリは鍋から牛肉を摘まみ上げると「はいっ」と鉄ちゃんの取り皿に入れてやる。鉄ちゃんは「おう」と一声発し、溶き卵をまぶしてズバッと肉を吸い込んだ。サオリは対面の女子学生の取り皿にも肉を入れてやった。そして、鍋の中の肉を少し動かしてから、一片の牛肉を摘まみ上げる。
まだ口の中に肉が入っている鉄ちゃんが「おお、でけえなあ」ともごもご言う中、サオリはその肉を夏生の取り皿の中に沈めた。
「ど、どうも」
「今宵は新入生歓迎なんだから、ガンガン食べていいのよ。鉄ちゃんの分まで食べていいのよ。ふふふっ」
「そりゃないでしょ。俺は、毎日五百円で生きてるんだから」
対面の女子学生が、一日五百円でどうやって食べているのかと鉄ちゃんと話し始めると、サオリは夏生のコップにビールを注いでやった。
「サオリさんも食べてくださいよ」
「優しいんだね。でも、私ね、今出川さんには悪いけど、すき焼きってあんまり好きじゃないんだなあ。今日は割り下の煮込みベジタリアンってとこね」
サオリは、白菜や春菊、ネギをたっぷり取ると、その勢いでもう一枚の肉を夏生の取り皿に入れてやった。隣から女子学生と鉄ちゃんの会話が聞こえてくる。鉄ちゃんは、自炊に努め外食はまずしないとシイタケを頬張りながら話している。