朝は故郷から送ってくる米と味噌汁で食事を済ませ、昼は三百円までの食事を学生食堂でとる。夜は、出来合いの総菜をスーパーで買ってきて、朝炊いた米飯と味噌汁で三食を終了するという。

「先輩、まめですね。でも、飽きません?」

と女子学生。そうだ、そうだと夏生も肉を噛みながら思った。

「そりゃあ、三百六十五日こんな生活を続けられれば、俺は聖人やな。本当のところ、夜の自炊は週に三日ほどやな。あとは店で食べさせてもらっている」

と、鉄ちゃん。鉄ちゃんは下宿の近くの串カツ屋でアルバイトしているとのことだった。

「まあ、串カツ屋っても、バイトだから酒は飲めないけどな。その店がいいのは、バイトが始まる前とバイトが終わってからの二回、飯が当たるということなんや。夕方の五時半頃から始まって終わるのは日付が変わった午前二時。

仕事帰りの人や学生やらたくさん客が来る。俺は、焼き物、ほれ、ピーマンの肉詰めとかエノキのベーコン巻とかを担当してるんやけど、客が途切れないうちは、ひたすらピーマンやエノキとの格闘が続くってことだな」鉄ちゃんはビールが回ってきているようで、女子学生が口を挟めないくらい捲し立てていた。

「夏生さんもアルバイトするの?」

ビールを飲んでフーッと一息つくと、サオリが気怠そうに体を夏生の方に向けてきた。

「ええ、もうしてます。こっちに来てすぐ」

「へえ、よく見つけたね」

「同じ下宿の先輩、哲学科の学生ですけど、こっちに引っ越してきたその日に誘われました」

夏生は天国飯店のことを少し話したが、サオリはさして関心を示さなかった。

ただ、アルバイト開始前に食事できることが楽しみだという点については「ふうん。鉄ちゃんと同じこと言うのね。私は、ほとんど外食はしないよ」と反応したのだった。

「私もバイトしてんだけどさ……」

とサオリが振ったところに「夏生君、飲んでまっか。食うてまっか」とビール瓶とコップを持った今出川が割り込んできた。今出川は、三人の新入部員一人一人にビールやお茶を注いで声をかけていた。

話し相手を取られた格好のサオリは、女子学生の手を握りそうになっている鉄ちゃんと今出川に引っ張られている夏生の間で、枝豆をコリコリ噛みながらコップのビールを嘗めていた。

サオリの耳には鉄ちゃんの大声と今出川の声がクロスして入ってくるが、時々聞こえる夏生の声だけは、他の二人と周波数が違うかのように鮮明に聞こえていた。

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