その為我が社は何としても既存のガソリンエンジン車を、燃料を変える事で存続させたいと社長以下必死でその生き残りを模索しております。自動車産業でも雇用状況は今より厳しくなってゆくと思えます。そんな状況を踏まえるとご希望にはお応えしかねないかと危惧致しております」とそれとなく遠回しに須崎のお願いに断りを入れてきた。

「実情が厳しい事は理解しております。本日はお忙しい中、お時間を割いて頂きありがとうございました。ご協力に感謝申し上げます」と答えると豊田が「あっ、そうだ! その手がある」と言い出し、須崎にこんな事を持ち掛けてきた。

それは、会社としての社会貢献活動の一環として、期間工募集枠の内の一名だけをF刑務所の模範囚を特別枠として採用するという案で、その代わり企業としての社会貢献活動として、受刑者の社会復帰を手助けしている事をホームページや広報紙、マスメディア等でアピールするというものであった。

須崎の一存では決めかねる提案なので、持ち帰って上と相談するという事で須崎はその場を収めた。

この後、須崎は豊田の案内で期間工の寮や社内食堂等の施設を見て回り、再び応接室に通されると現在の期間工の採用条件や待遇を記した紙データを渡された。

「先程の件で採用された場合の処遇関係が示された資料です。社会貢献活動として評価が高ければ一名枠を二名、三名と拡大できる余地はあるかと存じますので何卒宜しくご検討の程お願い致します」と社会貢献活動とする事を思いついた豊田は打って変わって積極的になった。

そして帰り際に「そうそう、欧州の有名なスポーツカーメーカーが我が社と同じ様に内燃機関を残そうと、ガソリンという燃料をエタノールに替える取り組みに挑戦しています。興味が御有りでしたら調べてみて下さい」と言ってきた。

これに須崎は「分かりました」と答え深々と頭を下げて礼を言い、そこから直行する形でF刑務所へと帰ってきた。

【前回の記事を読む】模範囚として出所するも、待っているのは厳しい世間の目。そんな状況を打破する案はあるのだろうか…?

次回更新は11月21日(木)、8時の予定です。

 

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