第三章 調査3、一次産業への就労支援
『一次産業への就労支援』というテーマに取り組む事になった団には、心境の変化が生じていた。それは、今まで全く出席しなかった都内屈指の進学校の同窓会に、ある意図を秘めて初めて出席したのである。
それは、首都東京の主な再開発事業六本木・汐留・品川・市ヶ谷ミッドタウン等の再開発事業に携わった、大手ディベロッパーに勤務する村木隆文に近付く事で、F刑務所を再開発した場合の一番のネックなどを、それとなく聞き出したい思惑を秘めていた。
団の脳裏には拭い切れない一抹の不安がよぎっていた。それはあの高さ五・五メートル、全長一・八キロに及ぶ刑務所の塀を壊すのにいくら要するか、という不安である。
都内で約八万坪というまとまった土地は、開発する側にとってはとてつもない魅力だろうけど、更地として売り払うには塀を撤去する必要があるとしたなら、その取り壊しに売却代金の半額以上の代金を費やすのでは意味がないからである。
最近の解体で話題を集めた事例に、あのテレビでも取り上げられた東京都心の四〇階建て地下二階、高さ一四〇メートルを超えるといわれた建物の解体が思い浮かんだ。
日本の大手建設会社が達磨落としの様な工法で、一年以上の歳月を要して解体され、解体工事費用と解体によって発生した瓦礫の撤去費用に、およそ二一億円以上を要したであろうと推測されていたのだ。
団の脳裏にはこの解体費用の恐怖がよぎっていたのだ。その為、大手ディベロッパー勤務の村木におおよそのところを聞いてみたいと思い付き、卒業して二〇年になる同窓会に出席する気になったのである。
団は予め幹事に村木の出欠を確認する念の入れようだった。そして同総会当日、会場で村木を探し当てた団は、自ら近付いて声を掛けた。
「村木、久しぶり。俺、覚えているか? 団琢磨だ」と言うと「ああ、覚えているよ。確かお前今検事だろ? 東京地方検察庁検事って、政治家の汚職なんかを捜査する、特捜部は泣く子も黙る、と怖がられている所だろ?」と皮肉を言ってきた。