「いや、俺は特捜の検事じゃなく、一介の検事だから……」と団が言うと「あっ、そう言えば幹事が、お前が俺の出席を予め訊ねてきたと聞いたぞ。生憎だけど俺はディベロッパー勤務だけど、談合や政治家に口利きを頼めるほどの権限はないぺーぺーだから、俺から捜査情報を引き出そうなんて思っても無駄だからな」と念を押してきた。

この対応に団は吹き出しながら「お前、ドラマの見過ぎだ! 取り調べは刑事の仕事で、俺達は送検された事件を精査するのが仕事。被疑者が事件を引き起こすに至った経緯や捜査資料に誤りはないかを質すのが仕事だ」と自身の日頃を披露して、疑念を晴らした。

「それじゃ、何故俺の出欠を幹事に確認したんだ?」と質され、団は渡りに船と飛び付いた。

「お前にいくつか教えて欲しい事があるんだ。同級生のよしみとしてなんだけど?」と団が思わせ振りに言うと「俺に答えられるような事なら別に構わないけど」と村木が答えてくれた。

「ありがとう、恩に着る」そう言って、団は自身が懸念を抱いている事を質していった。

「えっ、あのF刑務所の敷地って八万坪もあるのかー。ざっと見積もって坪単価は一〇〇万円から一五〇万円といったところだろうな」と村木が言ったのを受け

「それって、更地でってことだよな? 居抜きでは売れないよな?」と冗談めかして言うと「当り前だろう。刑務所買ってどうする? そんな物好き、いくらなんでもいないだろう」と笑いながら言った。

そこで「じゃ、高さ五・五メートル総延長一・八キロのコンクリート製の塀を取り壊して、更地にするのにはいくらくらいを要する?」と本音をぶつけてみた。

「えっあの塀高さ五・五メートルもあるのか? 総延長一・八キロ、想像もつかないけど、壊すだけじゃなく瓦礫の撤去、運び出しを考えると総事業費は二、三百億円を見込むべきかと……それより工事個所が全て住宅隣接地という環境が難題だ!」と団の懸念を裏付けてくれた。

「やっぱり、そうか」と団は呟いた。

F刑務所の壁はベルリンの壁の様な訳にはいかないと悟った瞬間であった……こうして、この同窓会ではそれなりに自身が抱いた懸念に対する成果を収める事ができた団は次なる課題へと挑んでいくのである。

【前回の記事を読む】出所後、人手不足に陥っている農業・漁業・林業の一次産業に就労させるというのは妙案か!?

本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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