シニア世代のための「万葉集百人一首」

四十 し 336

しらぬひ 筑紫(つくし)の綿は 身に付けて いまだは着ねど 暖けく見ゆ

沙弥満誓(さみまんぜい)

【訳】九州の真綿はまだ肌身に付けて着たことはないが、いかにも暖かそうだ

【注】

1 沙弥満誓=造筑紫観世音寺別当・俗姓は笠朝臣麻呂、旅人の歌友。元明太上(げんめいだいじやう)天皇の病気平癒を願って出家

2 しらぬひ=「筑紫」の枕詞。ここでは九州の総称

3 筑紫の綿=筑紫の女性の譬えとも言われる。綿はまゆからとった真綿。防寒のために用いた九州の名産品

4 暖けく見ゆ=筑紫も捨てたものではないとの寓意がこもる

四十一 し 3170

志賀の海人(あま)の 釣りし燈せる いざり火の ほのかに妹を 見むよしもがも

作者未詳

【訳】 志賀の海人が夜釣りに灯している漁り火のようにちらっとでもあなたをみる手立てがあったらなあ

【注】志賀=上3句は序。「ほのかに」を起こす