第三章 ギガロッシュ
イダの庵がそこから近かったのと、あそこの戸口がいつも施錠されていないことを彼は知っていたからだ。イダはまだ火の傍に置いた背もたれ椅子で眠っていたが、気配に驚いてびくっと飛び起きた。
「申し訳ありません、イダ様。まだお休みのところを起こしてしまいましたね」
シルヴィア・ガブリエルがすまなさそうに小声で謝ると、イダは目をこすりながら、
「何じゃお前か! 人聞きの悪いことを言うな、儂はもう夜明け前には起きて一仕事して、やれやれと思うてうつらうつらしとったところだ」
寝ぼけても相変わらず負けず嫌いの人だと呆れた。
「いえ、まだそんな朝寝を咎められるような時間ではありませんよ、百姓だって寝ておりました」
「何じゃ、お前はこんな早くからどこぞへ行っておったのか?」
戸口の彼を部屋の中に招き入れようと近づいて手を取った。
「お、冷たいの。体も芯から冷えておるではないか、一晩中外におったようじゃな」そう言って彼を火の傍まで押し出した。
「無茶なことをした報いじゃ、今日は熱が出て動けんぞ。そこでちょっと休んでおれ、儂が今、薬を煎じてやるわ」
「ちょっとお願いがあってまいりました」
「何だ」
「昨晩はここにいたことにして頂けませんか? ちょっと居所を問われると面倒なので」
シルヴィア・ガブリエルはイダの顔色を窺い見た。
「ほう、一晩中どこにおったのか儂に教えれば、そういうことにしてやっても良いぞ」
イダはひしゃげた顔を崩して意地悪く笑った。