思いがけないこと
三日ほど考えて、田村の要請を受けることにした。不安はたくさんあるが、パートの花屋の仕事よりは安定する。
店長も有美さんも、残念だけれど将来のためにと喜んでくれた。
翌月から美智子は花屋のパートを辞めて、田村が紹介してくれた商社の園芸部に勤務することになった。
美智子はつなぎの作業服が気に入っていた。別に会社から着るように言われたわけではなかったが、その中に身を入れると外界から守られるような気がした。自分が仕事をしているだけの人間になれるような。
都会の中にこれほど広い敷地が地面のままであるのは感動的だった。地植えの花壇や背の高い温室がサッカーグラウンドの何倍もの広い面積を占めている。
美智子は特に責任のある立場にいるわけではなかった。朝の仕事はゆっくり見回りながら、弱っている苗を除いたり、混み過ぎている茎を切ったりする。実家の畑でやっていたことと変わらない。
管理小屋の壁に掲示板がある。
・水遣りは朝夕一つ面に五リットル撒く
・枝を切るときは葉の五枚分下から
・本葉が三枚になったときに株分けをする
・肥料は火曜日の午前中にやる
作業場には工程が細かく書かれてある。